Adobe Photoshop Lightroom 5 で、【SilkyPix】にある機能「HDR・HDR-覆い焼き・HDR-焼き込み」などに相当する効果を実現する方法を探ってみました。
前回の記事「Adobe Photoshop Lightroomで初めてRAW現像をやってみた!」の後、「HDRや焼き込み・覆い焼き」の機能はどこにあるのかなと思ってマニュアル本の現像に関する部分を一通り読みました。
そういう言葉は見つかりませんでしたが、「基本補正」パネルの中の「階調」と「外観」を上手く使えば【SilkyPix】でやっていたことが実現可能そうなので、過去の写真から何枚か選んでテスト編集をやってみます。
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HDR・覆い焼き・焼き込みとは?|用語の確認
人間の目はとても優秀です。一瞬にして明暗差を調整することができるので、極端に明るい部分が含まれる光景も極端に暗い部分が含まれる光景も、全体を自然な明るさの映像として認識できます。
しかし、写真では、フィルムであれデジタルであれ、明る過ぎる部分と暗過ぎる部分を同時にほどよく描写することはできません。
明るい部分に露出を合わせると暗い部分は黒くつぶれてしまいます。これを「黒ツブレ」といいます。
また、暗い部分に露出を合わせると今度は明るい部分が白く飛んでしまいます。これを「白トビ」といいます。
銀塩写真でポジフィルムを使ったことがある人は、黒ツブレ・白トビを経験したことがあるでょうから、説明の必要もないでしょう。
このような黒ツブレあるいは白トビ写真を救済する方法が【HDR】です。
HDRとは、ハイダイナミックレンジ (High Dynamic Range imaging) の略です。
白トビが発生する限界値と、黒つぶれが発生する限界値の幅を「ダイナミックレンジ」といい、ダイナミックレンジが広いとか狭いとかと表現します。
【HDR】は、暗い部分のディテールと明るい部分のディテールを描写した複数枚の写真を合成して一枚の写真にすることで、ダイナミックレンジを広げる技法です。
最近では多くのデジタルカメラで撮影時に【HDR】の設定ができるようになっていると思います。(スマートフォンにもこの機能が加えられる傾向があります。)
一方、撮影した後に【HDR】の効果を与えることが、現像ソフト&レタッチソフトの一部で可能です。
その代表格が【SilkyPix】だと思います。
【SilkyPix】は、写真データに含まれる豊富な情報を最大限に利用することで、一枚の画像データから【HDR】表現を実現しています。
風景写真の撮影現場で【HDR】による合成を想定して露出を変えて複数枚それようの写真を撮るのは私のような不精者には難しいので、ソフトで対応できるならその方が有り難いです。
もっとも、複数枚から合成した方が仕上がりは良いだろうと想像できます。(【Lightroom】には、有償ながら強力な【HDR】プラグインがあるようですね。)
【SilkyPix】の【HDR】パネルには選択肢として下記の項目があります。
その内容を説明すると次のようになります。
1.「HDR-焼き込み」
白トビに近い明るい部分を自動で検出し、減感させることで階調を復元します。これは明るい部分にのみ適用され、暗い部分の明るさには影響がありません。
2.「HDR-覆い焼き」
暗い部分を自動で検出し、増感させることで明るく再現することができます。これは暗い部分にのみ適用され、明るい部分の明るさには影響がありません。
3.「HDR」
明るい部分と暗い部分を同時に調整します。
こういうことを【Lightroom 5】でやろうとするのが今回のテーマです。
その前に、【SilkyPix】の「警告表示」に相当する【Lightroom】の「クリッピング表示」の存在を知って利用する方が作業がやりやすいと思いますから、まずそれを確認しましょう。
【SilkyPix】の方が、言葉としてはるかに分かりやすいですが、「ハイライト警告」と「シャー警告」があります。(同時に色飽和も教えてくれます。)
要するに、白トビと黒ツブレしている箇所を色表示で教えてくれる機能です。
白トビ部分は黒色で、色の方は反転色(ネガ)で表示されます。
花の上部は真っ黒になっていて白トビしているのが分かります。
ここまで白トビをしていると「ハイライト警告」表示がなくても分かりますが、微妙なところの微妙な調整にはとても重宝する機能です。
一方、【Lightroom】の「クリッピング」という言葉は実に意味が分かりにくいですね。
クリッピングというのは、今問題にしている機能に関係する意味としては、「切り抜くように表示させた白トビや黒ツブレしている部分」ということなのでしょう。
「メニュー」の「表示」→「クリッピングを表示」でクリックすると表示されます。
ところで、【SilkyPix】の黒色の面積と、【Lightroom】の赤色の面積を比較すると、後者の方がかなり少ないですね。白トビしているという判断の仕方が異なるのでしょうか。
【SilkyPix】で黒色表示部分が完全になくなるようにするためには、露出量を-1EVにした上で、「HDR-焼き込み」のスライダーを「100」にする必要があります。
そして、ハイライトポイントがグレーがかって不自然過ぎる結果となりました。
今まで【SilkyPix】でハイライトを修正してきた経験では、この場合のようにグレー気味になり、本当の白トビはなかなか上手く補正できない、という印象を持っています。
この点で、【Lightroom】はどうなのだろうかと期待を持って検証したいと思います。
ヒストグラムの左右にある「▲」マークで「ハイライトのクリッピング」と「シャドーのクリッピング」を切り替えることができます。
「クリッピング表示」は常にオンの状態にさせておくこともできますし、「▲」マークにカーソルを置いた時だけ表示させることもできます。
理論武装を終えたところで、具体的な作業に入ります。(^^)
【Lightroom 5】の「現像モジュール」の中に、「HDR、焼き込み、覆い焼き」という言葉は見当たりません。
使い始めなので、断定はできませんが、たぶん無いのでしょう。(^.^)
ですが、「基本補正」パネルの中にある「ハイライト」「シャドー」が使えそうに思います。
「補正ブラシ」も利用できると思いますが、明らかに白トビしている部分や黒ツブレしている部分がある場合は、「ハイライト」「シャドー」の方が直感的に作業ができるように思います。
まだ明確には言えませんが、基本は、「ハイライト」と「シャドー」、応用は、「補正ブラシ」という感じでしょうか。
テスト(1)ショウジョウバカマの白花の白トビを救済する
林床に咲いているショウジョウバカマに木漏れ日が射しています。
白い花の花冠の上部が完全に白トビしています。
「露光量」で調整すると、対象が全体におよぶので全体的にアンダー気味になり、林床の雰囲気も暗くなってしまいます。(下の写真)
背景の中央奥にあるアウトフォーカスなのは古い切り株なのですが、これを暗くしすぎると全体が重くなってしまいます。
というわけで、【HDR】的編集の出番です。(^.^)
「基本補正」パネルの中の「ハイライト」のスライダーを左にドラッグします。
赤いクリッピングが消えるところまでが最初の目標ですが、そこで様子を見てさらに左にドラッグするか、あるいは右に少し戻すかを判断します。
こういう微調整は、本当のところは、カラーマネージメントを行ったモニター上でないと無理だと思います。自分の使用しているモニターの中だけで完結するのであれば別ですが、ウェブにあげたりプリントアウトするのですから、モニターに不安を抱きながらできる作業ではありません。
★参照記事 ⇒ EIZO ColorEdge CG277(キャリブレーションセンサー内蔵)でカラーマネージメント
スライダーを左右に動かすとリアルタイムで調整が反映されますから、自分のイメージになるまで追い込みます。
明るい雰囲気は維持できています。
つまり、「ハイライト」は暗部には影響を与えません。【SilkyPix】の「HDR-焼き込み」と同じですね。
こうして白トビを処理した写真から、”作品”のレベルまで全体を調整していきます。
明るい雰囲気を描写するために、ホワイトバランスを少しだけ調整します。
コントラスも少し高くし、最後に彩度の調整をします。
これで完成とします。
テスト(2)逆光の山岳風景を自然な感じに仕上げる
太陽の周りの山霧を可能な限り白トビを押さえたくてかなりアンダーに撮影しました。
太陽の前の山霧が強い光を浴びて白トビして太陽の部分と周りの雲との間に不自然な境目ができているのを救済して馴染ませます。
雲海を基準にして自然な感じになるまで露光量と「ハイライト」で調整します。
その際に、太陽の周りが山霧に馴染むように境目を目立たなくなるように調整します。
この「露光量」と「ハイライト」でちょうど良いバランスにするために何度もやり直しをしました。
次に、目で見た時のイメージに近づけるために、「シャドー」を使って手前の地面付近のアンダー部分を明るく補正します。
「シャドー」は【SilkyPix】の「HDR-覆い焼き」と同じで、明部には影響を与えません。
明るくし過ぎるとかえって不自然になるので、アンダー気味におさえます。
明るさの微妙な調整においても、モニターのカラーマネージメントが大切で、「ガンマ・輝度・白色点」などを理想値に設定しておく必要があるのは当然ですが、それ以前に、【IPSパネル】のモニターでないと、見る角度によって明るさが変化するので、正しい調整を自信を持って行うのは難しいと思います。
これで完成とします。
ちなみに、1枚の写真に対して、「ハイライト」で明部をおさえ、「シャドー」で暗部を明るくすると、それは【SilkyPix】の【HDR】の機能と同じことになります。
テスト(3)トビ気味の空の部分を救済して夕空の雰囲気を再現する
露光の基準を雲海にすると空の階調がとんでしまうのでアンダーに撮影しています。
日没前の雲海風景の雰囲気をバランス良く再現したいと思います。
この程度調子が残っていればポジでも「焼き込み」である程度色を再現できます。
10月の中旬の撮影なので、山では夕刻ともなれば気温もかなり下がります。
夏の雲海とは違って、寒々しい晩秋の雲海の雰囲気を出し、同時に帯状に焼けている空の雰囲気を撮影時の印象に近づけます。
2005年に撮影したのですが、ここまで編集をして、撮影時寒い中でシャッターチャンスを待っていたその時の状況を思い出す仕上がりになりました。
これで完成とします。