山好きなら、山野草好きなら、一度は歩いてみたい『秘境 乗鞍山麓五色ヶ原』の紹介です。
もう10年以上も前のことですが、乗鞍山麓「五色ヶ原」が一般に公開されることになったというニュースは新聞の広告で知りました。
今までは地元の人しか入ることのない”秘境”であるとその時初めて知り,「手つかずの自然」というフレーズに強く興味を刺激されました。
そして、翌年の2005年、2006年、2007年と立て続けに行きました。
経験したことのない自然の豊かさに圧倒されたからでした。
感嘆の連続だった当時の探勝(というよりも、山歩き)が懐かしく、近い将来に再び行ってみようと思っています。
『秘境 乗鞍山麓五色ヶ原』探勝の概要
北アルプス乗鞍岳の北西に広がる『乗鞍山麓五色ヶ原』は中部山岳国立公園の南端にある広大な森林地帯にあり,手つかずの希少な自然が残る秘境です。
一般に公開されるようになったのは2004年からです。
可憐な花を咲かせる山野草が豊富で,多くの渓流と滝,池,湿原があり,野生動物や野鳥・昆虫が多く生息しています。
訪れるたびに探勝者に四季折々の表情を見せてくれるはずです。
2つの探勝コース
乗鞍五色ヶ原には探勝コースが2つあります。
滝を中心とした「滝巡りコース(カモシカコース)」と、池を中心にせせらぎや湿原を楽しむ「池巡りコース(シラビソコース)」です。
両コースとも約7kmを約8時間(休憩時間を含む)かけて歩くことになっています。
したがって,時間的には決してハードではありません。余裕を持って設定されています。
どちらも山の案内人がガイドさんとして引率する有料のツアー形式です。
勝手気ままに歩くことはできません。個人で入山することはできないということです。
※詳細は公式ホームページをご覧下さい ⇒ 乗鞍山麓 五色ヶ原
両コースの散策レポートを『石鎚自然写真館』の「撮影紀行」に掲載しています。
たくさんの写真をつけたレポートですので,コースの様子や概要を知ることができると思います。
探勝に興味がある人たちにとって、計画の参考になれば幸いです。
※下の地図をクリックすると拡大して見ることができます。
★体験者からアドバイス(1)
公式ホームページや他の情報源などでは「探勝」とか「散策」という言葉が使われていますが,その実態は「登山」と言ってよく,決してハイキングと考えてはいけません。(普通の体力の人を基準にして書いています)
「滝巡りコース」の方がアップダウンがきつく中級者以上向きで,登山で言えば少なくとも2000m級の山に登る脚力が必要です。
このコースの特徴は,乗鞍岳中腹斜面をトラバースしながら,多くの滝や紅葉樹主体の多彩な森を巡るところにあります。ほとんどが森林帯のため広い展望は期待できませんが,乗鞍岳ならではのダイナミックな自然が実感できるところです。
コースの標高は,起点のペンタピアスノーワールドが約1360m,コース最高点が約1620mで,およそこの範囲内でアップダウンを繰り返します。しかし,足場の悪い路面や急斜面のトラバースなど,緊張する場面も少なくありません。山は常に危険と背中合わせであることを忘れないで下さい。(参加者に配布された小冊子より引用)
地元の人にしか分からなくて申し訳ありませんが,石鎚山系で言えば,寒風山に登る際の桑瀬峠までの急登や伊予富士の最後の急登,あるいは石鎚山の二の鎖から上の登りを想像していただくとよいでしょう。
したがって,たまにしか山歩きをしないような人が歩くと足を攣ったり肉離れを起こす可能性が高いと思います。
運動不足の人はスクワットなどをしてふくらはぎと太腿を鍛えておく必要があります。
山歩きをしても筋肉痛が出ない程度に歩き込んでさえいれば問題ないというのが体験的印象です。
しかし,上記の距離とコースタイムから分かるように,幸いなことに速く歩く必要はありません。
案内人の説明を聞くときは立ち止まります。それが小休止の役割をします。
さらには雨具や弁当などの最低限の荷物で済むのでリュックの重さは数キログラムの範囲内で収まるでしょう。
水も水場がコース上にあるので水・お茶の類は特には必要ありません。
ただし,夏場や汗かきの人はスポーツ飲料水を携帯しておいた方がよいかも知れません。
一方,
「池巡りコース」の方も「アップダウンがほとんどなく平坦なコース」というような説明のされ方をしますが,実態は異なり結構アップダウンもあります。
事前情報を鵜呑みにしていたら精神的に辛いかもしれません。(山の中なのだから,ある程度はアップダウンがあるのは当たり前,という気持ちで歩けば大丈夫でしょう)
このコースの特徴は,乗鞍岳西側中腹の緩やかな斜面に展開する多数の池と滝,湿原,亜高山針葉樹林と夏緑広葉樹林の色分けがはっきりした森林など,バラエティーに富んだ自然を巡るところにあります。
このコースの標高は,起点の出合い小屋が約1400m,最高点が岩井谷林道のシラベ沢口で約1640mあります。危険箇所は滝周辺を除いてほとんどありませんが,足場の不安定な箇所は随所にありますから,気をつけてください。(参加者に配布された小冊子より引用)
これまた地元の人にしか分からないので恐縮ですが,石鎚山系で言えば,土小屋コースの土小屋から二の鎖小屋までのコースや桑瀬峠から寒風山までを想像していただくとよいでしょう。
★体験者からアドバイス(2)
足回りについてですが,運動靴で歩く人も中にはいるらしいですが、それはやめた方がよいでしょう。
足首を傷めるのが落ちです。
足首までしっかり保護できる登山靴が必要です。布の軽登山靴で十分です。
特に,くるぶしなどの足の側面が岩に当たっても痛くないような靴が必要だろうと思います。
そして,スパッツは使用した方がよいと思います。
私は最初は蒸れそうで使わなかったのですが途中で着用しました。
笹や葉で濡れるというようなことはないのですが,ぬかるんでいる所が多いので靴もズボンが段々と汚れてくるからです。
夏場以外は冷え対策になるかも知れません。
★補 足:
五色ヶ原案内センターに電話で問い合わせをすると,80歳近い人でも歩いていますから大丈夫ですよ,などと軽く「たいしたことは無い」というニュアンスで言われます。
ですが,山歩きが趣味の義父は75歳で歩いて途中で足を攣ってリタイアしました。
こういう経験もあり,上の記事では意識的に用心を促すような書き方になっています。
◎探勝ルール
この五色ヶ原を探勝するにはルールがあります。
◎入山(ツアー)10日前までに予約する必要がある。
◎案内人と一緒に少人数グループ(最大10名)で探勝する。
◎滝巡りコースを体験してからでないと池巡りコースには参加できない。
◎ツアー期間は5月20日から10月31日までとなっている。
ガイド料金などの詳細は、上記の公式ホームページの「問い合わせ」で最新情報を入手して下さい。
乗鞍山麓五色ヶ原の「池巡りコース」の最後に待っているのがこの名瀑,布引の滝です。
この布引の滝は、対岸の崖から幾筋にも伏流水が流れ落ちて1つの大きな滝を形成しています。
伏流水であるが故に1年を通して水量は変わらないのだそうです。
豪快な滝は日本各地にあり見慣れていますが,これだけの規模で岩壁を這うように静かに流れ落ちる滝は他に知りません。
実に優雅な瀑布です。
水量豊かな乗鞍の自然が作り出した“芸術作品”と言えましょう。
探勝コース上に咲く山野草
◎ラン科 テガタチドリ属:ノビネチドリ
乗鞍五色ヶ原の森歩きでは登山道沿いでラン科の花を見ることができます。
本種,ノビネチドリが咲くころは他のランはまだ少なく,1ヶ月ほどすると珍しい種も含めて何種類か見ることができます。
◎バラ科 コキンバイ属:コキンバイ(小金梅)
中部地方以北なので乗鞍五色ヶ原の森で初見の花でした。
葉がヒメヘビイチゴと似ているのでその類であろうと推察できますが,花の大きさはかなり違うようです。
花茎の先に直径2cmほどのよく目立つ黄色の花を1~3個つけます。
乗鞍の森の中の比較的明るいところ何箇所かで小群生を作っていましたが,なぜかほとんどの花は撮影する方から見ると反対側を向いていてうまく撮影できませんでした。
太陽の方を向いていたのでしょうか。
それにしても,深い森の中では黄金色はやはりよく目立ちます。
花名はガイドさんに教えてもらい,後から図鑑で勉強しました。
◎ツツジ科 ヨウラクツツジ属:コヨウラクツツジ
小瓔珞躑躅と書きます。「垂れ下がる紅紫色の花を,仏像などの頸や胸に下げ,または寺院の軒下につるす瓔珞(ようらく)にたとえたもの」というのが花名の由来です。
ヨウラクツツジに比して小さいので「小」がつきました。
ほぼ若葉と同時期に,花柄の先に少し歪んだ壺形の花を数個下向きにぶら下がるように咲かせます。
径は5mmほどでしょうか。
花が終わる頃に開くそうなのですが未だに観察の機会はありません。
花冠が少しいびつで寸詰まりなので,見慣れないときは花が痛んでいるのだろうと誤解してしまいました。
◎ミズキ科 ゴゼンタチバナ属:ゴゼンタチバナ(御前橘)
アルプス遠征で10数年前から知っている花ですが,改めに調べて見ました。 “御前”とは何ぞやと思いきや,石川県が誇るあの白山(ハクサン)の最高峰のことのようです。
その御前峰で初めて発見され,その実がカラタチバナの赤い実に似ることに由来するとのことです。
4枚の白い花弁に見えるのは本当は葉の一種で本当の花が中央のツブツブです。
葉は輪生のように見えますが、対生とのことで、これまた驚きます。
葉は6枚(以上)だと花が咲き,4枚だと咲くことはない,という特徴を持ちます。
これは花期に観察するとよく分かります。
乗鞍五色ヶ原の案内人たちも毎回そのことを説明してくれます。
◎キンポウゲ科 オウレン属:バイカオウレン
花弁が白色で,丸みのある梅に似た花を咲かせます。
根が黄色いオウレンの仲間なのでこの名があります。
オウレンの仲間は共通して花後にメリーゴーランドのような実がつくのも特徴です。
花期の姿は『森の妖精』と呼んでやりたいような雰囲気があり,お気に入りの花です。
乗鞍五色ヶ原で出会ったときはもう花期の終盤でした。
フレッシュな個体がほとんどなかったのが残念です。そういう事情で花のアップがありません。
この写真は光量不足とはいえ恥ずかしながら手ブレを起こしてしまいました。
今なら、デジタルカメラの高感度撮影が優秀なので、問題ないでしょう。
ちなみに、探勝コースの途中では、三脚を立てて撮影するような余裕はありません。
◎イワウメ科 イワカガミ属:イワカガミ(岩鏡)
四国にもあるイワカガミですが,私のフィールでは2000m近い高山の岩場に生えています。
したがって,私の中では山野草というよりも高山植物というイメージなのですが,そのイワカガミが上高地の散策路や乗鞍の森の登山道沿いに咲いているのが実に面白く感じられます。
見慣れた花でも自生地の環境の違いに目を向けると新しい発見があるので楽しいです。
◎キンポウゲ科 イチリンソウ属:ニリンソウ(二輪草)
上高地で大群生が観察できるニリンソウですが,乗鞍の深い森の中に咲くニリンソウはこれはこれで風情があってよいものです。
ニリンソウの中に設けられている小径は実に優雅な弧を描いています。
また,沢沿いの小さな群生も入山者を和ませてくれます。
◎アブラナ科 ヤマガラシ属:ヤマガラシ(山芥子)
別名をミヤマガラシと言います。
中部地方以北の花なので四国では見たことが無く乗鞍五色ヶ原で初めて観察することとなりました。
渓流沿いに佇む姿が印象的で,黄色の総状花が風景にアクセントを加えていました。
◎ツツジ科 イワナシ属:イワナシ(岩梨)
山地や亜高山の岩場や礫地およびブナ林の林床などに自生する常緑小低木です。
五色ヶ原の森で初めて見ました。(後日,尾瀬で見ることができました。)
果実の味が梨に似ているのでこの名がある、とガイドさんの説明がありました。
深い森にピンクの淡い花はなんとも可愛いものです。
歩いている間に何回か見つけましたが,背景処理が難しくうまく撮ってやることはできませんでした。
ガイドさんによると、イワカガミと間違える人が結構おられるそうです。
花にあまり詳しくなければそういう風に誤解する可能性はあるでしょう。