遅ればせながらアドビの現像ソフト「Lightroom CC」のユーザーになったのを機に、Lightroom CCの新機能の中で一番興味のあった「かすみの除去」機能の可能性を様々なRAWデータ作品で試してみた。
その結果、「かすみの除去」のスライダー操作だけで、靄のためにいわゆる”眠い”描写になった風景写真を見違えるほど良好な状態に一発補正してくれることが分かりました。
仕上げとして、後はその結果を見て微調整を行うことでより短時間で満足のいく”作品”になる場合が多いと思います。
今まではこれを、コントラスト・ハイライト・シャドウ・白レベル・黒レベル・明瞭度および彩度の調整を駆使してなんとかクリアな写真になるように現像調整していた手間を考えると、”魔法のツール”は言い過ぎかも知れませんが、一度「味」を知ったら手放せない”必須のツール”と言えるでしょう。
しかも、最新版では、「段階フィルター」「円形フィルター」「補正ブラシ」などの部分補正においても「かすみの除去」機能が使えるようになっています。
これによってさらに細かな調整が行え、現像こだわり派にはいっそう有り難い機能となりました。
また、山岳写真や自然風景写真用の機能と考えていたのですが、試しにいろいろな写真に使ってみたところ、文字通り「かすみ」写真以外にも活用できる場合があることが分かりました。
というわけで、「かすみの除去」機能の基本編を中心に、応用的使い方も検証しまとめてみました。
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「かすみの除去」はLightroom CC限定
購入に際しては一つ注意が必要です。
それは、「パッケージ版ではこの機能は利用できない」ということです。
パッケージ版のユーザーであった私はこの機能を使いたくて【Lightroom 6】ではなく【Lightroom CC】を選びました。
他にも【Lightroom CC】でしか使えない機能があるので、この差別化は「12ヶ月契約月払い」制のサブスクリプション版での購入を促そうとするアドビの戦略であるのは間違いないでしょう。
このような差別化には少々納得できないこともあるのですが、野鳥撮影用に新しく購入したニコンのD500のRAWデータを今まで使っていた【Lightroom 5】では認識しないので仕方なくバージョンアップの必要に迫られた次第です。
どうせ投資をするのなら以前から興味のあった「かすみの除去」機能が使えるタイプにしようと、今回の【Lightroom CC】購入に至りました。
「かすみの除去」機能…基本編
「かすみの除去」機能がどのような効果をもたらすのかを客観的にイメージできるように【25】単位で変化をつけた結果を順番に並べます。
ちなみに、「かすみの除去」は「効果」パネルの一番下にあります。
「適用量」は初期状態では【±0】になっています。(スライダー上でボタンが中央にある状態です。)
右にスライドさせればプラス補正、左にスライドさせればマイナス補正になります。
比較検証するために選んだRAWデータからJPEGに書き出したものを貼っています。
このような検証には、(もちろん、実際の現像作業においても同様ですが、)それなりのモニタを利用する必要があります。
なぜなら、安価なモニタでは特に画面の上下において明るさが異なる場合が多いのですが、そのようなモニタはこのような比較検証には向いていないからです。
もし、上下で明るさが異なるなら、同じ場所(上なら上、下なら下、中央なら中央)で表示して比較してください。
さもないと変化の度合いが認識しづらいと思います。(←念のためでした。)
それでは比較検証スタートです。
「かすみの除去」プラス補正を試す
★元画像
★かすみの除去【+25】
★かすみの除去【+50】
★かすみの除去【+75】
★かすみの除去【+100】
「かすみの除去」をプラス補正すると、コントラストと彩度もそれに応じて強くなり、露出もアンダーに変化しているのが分かります。
このような特性があることを理解して使用する必要があるということですね。
【+25】で”眠い”印象がほぼ消えて自然な仕上がりになっているように思います。
【+50】にすると、少々強調的ではありますが、印象度が高まり記憶色として好まれる写真になったのではないでしょうか。
【+75】では彩度とコントラストが上がりすぎて不自然な印象を与えます。雲海上の雲の影の部分に明らかに青く色がのってきたのが分かります。
【+100】まで上げると、さすがに不自然としか言いようがない仕上がりになりました。
「かすみの除去」マイナス補正を試す
「かすみの除去」という名称ながら、スライダーを左に操作すると「マイナス補正」がかかり、「かすみ」が強調されます。
つまり、「かすみ」が足される訳です。
それでは、その度合いを比較検証してみましょう。
★元画像
★かすみの除去【-25】
★かすみの除去【-50】
★かすみの除去【-75】
★かすみの除去【-100】
全体がモヤモヤ感に覆われるようになり、その結果、コントラストや彩度も下がります。暗部も明るく描写されます。
さすがに、【-100】まで下げると、快晴のはずの状態が今にも雨が降り出すような雰囲気になってしまいました。
プラス補正の画像とマイナス補正の画像を比較すると、どうやら、マイナス補正の方が効果は大きく出るようです。
このマイナス補正は、霧の強調的表現に有効だと感じました。
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「かすみの除去」を部分補正で利用する
最初に「かすみの除去」が搭載された時(Lightroom CC2015.1)には、部分補正ではこの機能を利用できませんでしたが、最初のアップデート【Lighroom CC2015.2】で初めて可能になり現在にいたっています。
したがって、「段階フィルター」「円形フィルター」「補正ブラシ」などを用いて自分が選択した部分だけに部分補正をかけることができます。
現像にこだわりたい人には実に有り難い機能アップだと思います。
「段階フィルター」を使ってこの写真の上部に部分補正を試してみましょう。
★元画像
「ツールストリップ」から「段階フィルター」を選択すると、下のようなパネル(ツールドロワー)が表示されます。
明瞭度と彩度の間に「かすみの除去」があります。
「マスクオーバーレイ」を表示させると、段階フィルターを適用した部分が確認できます。
段階フィルターによって範囲を限定して「かすみの除去」を適用することで、川の流れの透明感と明るさを維持したまま、空と高嶺がクリアになりました。
「かすみの除去」を全体に適用すると、下の写真のようになります。
露出がアンダー側に振れるので、川の明るさ・輝き感が多少失われました。
このように、「かすみの除去」を限定的に用いたい場合は「部分補正ツール」を利用すると作業効率が高まります。
今度は円形フィルターを使って「かすみの除去」を適用させてみましょう。
手前の樹の明るさをキープするために、樹の部分に円形フィルターをかけます。
下の適用画像では、樹の上下左右に対して中央部分は露光の変化を受けていないことが確認できると思います。(周辺部分はグラデーションの影響で変化します。)
★「かすみの除去」適用前の状態
★「かすみの除去」を【+50】適用
★「かすみの除去」を【-25】適用
ちなみに、全体に「かすみの除去」を適用させて後で、補正ブラシを使って暗くなった樹の部分を明るく補正する方法でもほとんど同じ結果が得られます。
「かすみの除去」機能…応用編
写真の中に空や山並みが写っていなくても「かすみの除去」が効果的な場合もあるのではないかと考え試行錯誤をしてみました。
効果が期待できそうな典型的な例を紹介しましょう。
例:その1-滝の表現
★「自動補正」後の画像
上の写真はクリア感が足りないので、もっとくっきり見せたいと思います。
実際には複合的に組み合わせて使うのですが、テストとしてコントラスト、明瞭度、「かすみの除去」を単独で使用してメリハリをつけてみます。
★コントラスト【+100】
★明瞭度【+100】
★「かすみの除去」【+50】
白い部分の面積に注目すると、コントラストと明瞭度では多少の変化しかありませんが、「かすみの除去」では際だって少なくなっています。白い部分を「除去」した訳ですね。
明瞭度では、虹色が薄くなっているのが見てとれます。
これらの点に使い分けのポイントがありそうです。
例:その2-夕焼けの強調
★「自動補正」にさらに編集を加えた画像
★コントラスト【+100】
★明瞭度【+100】
★「かすみの除去」【+100】
通常は、必要に応じてハイライト、シャドウ、白レベル、黒レベルなども用いて調整するのですが、あえてコントラスト、明瞭度、「かすみの除去」を単独で使用して夕焼けをどのくらい美しく表現できるかを試してみました。
コントラストと「かすみの除去」は概ね良好に表現できていると思います。
画像が小さいので分かりにくいかもしれませんが、「かすみの除去」の方が夕焼けがより強調されながら暗部はコントラストほどつぶれてはいません。
星景写真の現像でも大活躍!?
何枚か現像を試した範囲内では、星景写真の編集でもこの機能は大いに役に立ちそうです。
これに関しては、もう少し試行錯誤を繰り返し可能ならば別記事にまとめたいと思っていますが、簡単に言うと、星をクリアにするために明瞭度を使いすぎると「ハロ」が発生してしまいます。
これが明瞭度の欠点ですが、明瞭度をハロが生じない程度に適用させて、不足分は「かすみの除去」で対応できるのではないかと考えています。
このあたりのことをもう少し検証したいと考えています。
まとめ
「かすみの除去」は基本的には、水(蒸気)に関わる現象に関しては大変有効と感じました。
「かすみ」にとらわれず、外から見た水の中の風景や水中写真など、水の中をクリアに表現するのにも試す価値はあります。
私は水中写真はやりませんが、池の中の魚や川底の小石などをクリアに表現できることは確認しました。
その他にも、花の写真や野鳥の写真でも有効な場合があったので、すべからく試してみる価値はあるのではないかと考えます。