現像ソフト「Adobe Photoshop Lightroom 5」の無料体験期間のリミットが近づいてきているので、メインテーマの山岳写真を現像してみたいと思います。
選んだのは、ライフワークして取り組んできた「霊峰石鎚山」です。
太陽がフレームの中に入るのでゴースト&フレアの心配をしながら、太陽の光芒を力強く再現すると同時に逆光に輝く雲海も白飛びさせず表現しなければなりません。
その結果、下の写真のようにアンダーに撮らなければなりません。
山岳写真の分野では、「太陽に向かってシャッターを切る」を旨としてきたので、そのような作品が多いです。
撮影するにも、現像においても厳しい条件です。
撮影時のイメージをどこまで再現できるのか試してみたいと思います。
現像対象に選んだ「霊峰石鎚山」の作品紹介
現像を始める前に、機材の説明をしておきます。それは、「このレンズだったから撮れた一枚」という作品なので、ぜひ紹介しておきたいと思います。
これを撮影した頃はまだデジタルカメラにはあまり興味がありませんでした。
たまたま岳父よりペンタックスの一眼レフカメラを貰い受けたので、試しに使っていたという状況でした。
★カメラ:PENTAX *istD
★レンズ:SMC PENTAX DA ZOOM16-45 F4 ED AL
このレンズ、特筆すべきは,条件によれば逆光に極めて強い点です。
時には,簡単にゴースト・フレアが発生することもないこともなかったのですが,銀塩の単焦点レンズでもゴーストが出るような条件であっても,このズームレンズではほとんど出ないことが何度もありました。
上の写真でゴーストが出たところに赤丸をしていますが、小さなゴーストであり、しかも太陽の近くなのでほとんど気になりません。(プロテクトフィルターを付けたまま撮影しましたが、付けなければまったく出なかったかも知れません。)
しかし、同時に撮影した中判の「ペンタックス 645」では単焦点レンズを使用したにも関わらず、太陽から離れたところにゴーストが出てしまいました。
山岳写真では、作品の価値を損ねるようなようなゴーストは致命的です。
ペンタックスの機材は、ニコンに移行した際にすべて処分してしまいましたが、ニコンでは逆光条件で安心して使えるレンズに今に至るまで出会っていないので、手放したことを後悔したものです。
【Lightroom】によるRAW現像のプロセス
【Lightroom】では、補正前と補正後の写真を左右に、あるいは上下に並べて表示させることができます。
ルーペ表示(1枚だけ大きく表示)との切り替えでうまく使い分けると作業効率がアップします。
下準備として、メニューの「表示」から『クリッピングを表示』をオンにしておきます。
白トビと黒ツブレを確認するためです。
現像作業に取りかかる前に、「現像の方針(=作品の完成イメージ)」ができている必要があります。
今回は、作業を進めながら目標イメージを段階的に明らかにしていきます。
1.「カメラキャリブレーション」で「Adobe Standard」を選択
ペンタックスの「カメラプロファイル」は用意されていないので、必然的にこの設定になります。(「Adobe Standard」はデフォルです。特に設定を変更していなければ、RAWデータを開くと、「Adobe Standard」が選択されています。)
2.左カラムにある「プリセット」の『ポジプリント調』を充ててみる
私の場合、プリセットの中で唯一使えそうなのがこの『ポジプリント調』ですが、今回の写真には不適でした。
全体は大きく変化しませんでしたが、太陽の光芒の雰囲気がイメージから離れてしまいました。
3.右カラムにある「基本補正」パネルの『自動補正」を充ててみる
いい感じです。ここから撮影時のイメージを再現するために追い込むことにします。
4.「基本補正」パネルの「ホワイトバランス」を調整
撮影したのは、10月初旬の午後5時13分頃で、あと30分で日が沈んでしまうという時刻でした。
したがって、夕刻の雰囲気を出したいと思います。
スポイトのイラストの右に「WB」があります。「撮影時の設定」から「自動」に変更して様子をみます。
その結果、このようになりました。
青空の黄色い濁りが薄れ、左手前のガスに透明感が出てきました。(画像が小さいと効果が分かりにくいようです。)
5.「基本補正」パネルで『ハイライト』と『シャドー』を調整
アクセントになっている光芒を『ハイライト』を使ってシャープにし力強さを表現します。
同時に、『シャドー』を使って、画面下の斜面(氷見二千石原)の黒ツブレしかかっている部分を少し明るくします。
しかし、明るくし過ぎると、石鎚山との遠近感が弱くなりますから注意が必要です。とりあえずは遠慮気味に補正しておきます。
これらの作業は
★RAW現像ソフト「Lightroom 5」で表現するHDR・覆い焼き・焼き込み効果
も参考にしてください。
現像作業の最終段階で全体のバランスを見て、必要があれば微調整を加えます。
6.「基本補正」パネル『明瞭度』と『自然な彩度』を調整
「基本補正」パネルの「外観」領域では、「明瞭度・自然な彩度・彩度」を調整して、写真全体の色の彩度(色の鮮やかさや純度)を変更できます(特定の色範囲の彩度を調整するには、後で作業する「HSL/カラー/グレースケール」パネルを使用します)。
いい感じなってきたのですが、小さな画像ではもうひとつ分かりませんね。(^^;)
7.「HSL/カラー/グレースケール」パネルで雲の色を微調整
手前のガス(雲)の色が少し不自然に赤いので、色単位で調整できる「HSL」パネルの「色調」を調整してみると、「イエロー」と「オレンジ」の微調整が必要だと分かりました。
赤みが少し抑えられたのが分かるでしょうか。
さらに、「イエロー」と「オレンジ」の「輝度」も調整します。
調整目標の色が決まったら、「カラー」に切り替えると「色相」「彩度」「輝度」の調整が連続的に行えます。
調整の結果、このようになりました。
不自然な赤みが抑えられ、手前のガスに逆光状態にふさわしい透明感が戻ってきて、全体的にクリアになりました。
8.「ディテール」パネルで『ノイズ軽減』を調整
「ディテール」パネルの左上にある「詳細ズーム領域を調整」画面で、暗部の気になるところを等倍に拡大して確認します。
『ノイズ軽減』の「輝度」を高め、その分「ディテール」も高めておきます。
「カラーノイズ」の方は、ほとんど問題がないようなので調整なしです。
9.全体的なチェック
全体を眺めてチェックをします。
ゴーストは「スポット修正」で削除することもできますが、作品を損ねるようなものではないので、このまま残しておきます。
小さな画像では気になりませんが、ルーペ表示にしたり等倍で表示すると薄いガスが流れている部分が明るめに感じます。
これは、最初に全体の露出を少し明るくしたために暗部が浮き出てきたためです。(「7」の画像と下の画像を比べると分かると思います。)
円形フィルターが楕円形で表示されている部分です。
逆光で完全に影になっている部分なので明るすぎるのは不自然です。
しかし、薄い霧状のガス(靄のようなもの)が流れている状態もある程度は残したい、ということで、円形フィルターで少しだけ露出と彩度を落とします。
何回か調整量を変えて不自然にならないように、ちょうどよいところをさぐります。
最期に、手前の笹原の暗部を「階調」の『シャドー』を使って少しだけ明るく目に補正します。
完成作品として書き出しを行ってみると、ハロ(被写体のエッジに発生する明るい/暗い縁取り線)が少し目立ちました。
明瞭度を設定した時は、比較表示(2枚表示)で作業をしていたので気が付きませんでした。
検索してみると下記のような情報がアドビのヘルプに載っていました。
明瞭度 部分的なコントラストを増やして画像の奥行きを強調します。この設定を使用するときは、100% 以上の倍率までズームインすることをお勧めします。効果を最大限にするには、画像のエッジ付近にハロが現れるまで設定を上げてから、設定を少し下げます。
明瞭度はいつも使うことになるでしょうから、忘れずにこのコツを実践したいと思います。
明瞭度の数値を半分ほどにし、その分「コントラスト」を少しだけ高くしました。
この段階で一度書き出してみるとこのような感じです。
ポジフィルムから「覆い焼き」と「焼き込み」を指示してプリントしたものに近い仕上がりだと思います。
フィルム時代なら全体のバランスを取るためにはここで諦めなければならないところですが、自分のイメージを具現化できるのがデジタルの良いところなので、さらに追い込みます。
撮影時の残像は、そしてその時の作品イメージでは、雲海の波が逆光に輝き、手前のガスが夕陽の色の影響を受けながらも、透明感のある輝きを見せていました。
そのイメージこそが、最終的な現像目標です。
10.完成作品
光芒に対して円形フィルターを充てて、光芒以外の露出を明るめに調整して、その分コントラストを少し高めました。
写真をクリックすると拡大(1280x854ピクセル)されます。
同じ写真でも、小さいのと大きいのとでは、小さい方が濃度が高く見えますので、大きさで多少イメージが異なります。
現像を終えて
光芒を活かした写真では、光芒を白トビさせずにしっかりデータを残しておくことが肝心です。(ポジフィルムでの撮影に似ていますね。)
データが残っているからこそ、ここまで追い込むことができる訳です。
そのためには、もちろん、RAWで撮影することが何よりも重要です。
デジタル写真の何たるかを理解しないで、「撮って出し」を礼賛する写真家がいますが、今回のような被写体で「撮って出し」をしたら、光芒はクッキリとしているけれども暗い雰囲気の元データのような写真か、あるいは、最後の写真から光芒が白トビして無くなったような状態の写真になるかのどちらかでしょう。
どちらも”作品”にはなりえません。
写真を“作品”というレベルにしたいのなら、撮影技術を身につけると同時に現像技術も学びたいものです。