デジタル写真時代の写真家の受難と好機

アマチュであれプロであれ、写真家にとって、銀塩写真の世界とデジタル写真の世界の一番大きな違いは何でしょう?

これはあくまでも私の個人的な考えですが、

銀塩写真時代はシャッターを切った時点で、作品作りという点では、写真家がやるべきことのほとんどは実質的に終了

しました。

中判カメラによる山岳写真-霊峰石鎚山天狗岳厳冬

もちろん、細かいことを言えばいろいろあるでしょうが、

シャッターを切った後で写真家が能動的にできることは、例えば、現像に対する特別な注文やプリントの際の「覆い焼き」・「焼き込み」の指示くらい

じゃなかったでしょうか。

デジタル写真家に求められるCMSと現像&レタッチ技術

一方、デジタル写真では、おおざっぱな言い方をすれば、シャッターを切った時点でまだやるべき事の半分しか行っていません。(写真家によっては、撮影7割、現像3割という意見もあります。)

それでは残りの半分は何でしょうか?

それは、現像&レタッチです。

ただ単に現像しソフトでちょっと彩度やコントラストをいじって、というようなレベルでは普通は”作品”にはなりません。

現像&レタッチソフトを使いこなす必要がありますし、これにはしっかりとした「カラーマネージメント」が伴います。

この点で今の写真家は大変です。

正確に言い直しますと、アマチュアであれプロであれ本気で作家活動に取り組もうとしている写真家にとっては、単にソフトの使い方に精通するとかのレベルの話ではなく、カラーマネージメント・システム(CMS)を正しく理解することが必須です。

そしてその理解に基づいて、ハード的にもソフト的にも環境を整え、自分のイメージ通りに作品にまで仕上げる技術を身につける必要があるということです。

つまり、昔は写真を撮ることだけに集中すればよかったのですが、かつてはプロラボに依頼していたようなこと(フィルムの現像・プリント作業)を、今はデジタル作業として自分自身で行う必要があるということです。

視点を変えると、デジタル写真は暗室の中でやる作業(白黒写真の現像と焼き付け)に似ているかもしれませんね。

学校の写真部や写真専門学校で写真術を学んだ人以外で、白黒写真を自家現像&プリントした人はほとんどいないのではないでしょうか。

コンテストに出すつもりで撮影をしていた人の多くはカラーポジフィルムを使っていたと思いますが、現像&プリントを自分でやることはありませんでした。

それでもプリントという形で人様に見てもらえるように、買ってもらえるように”作品”を作り出すことができました。

しかし、今はどうでしょう?

コンピュータに向かい自分で現像をし、自分の見た被写体をイメージ通りに再現するためにレタッチを行わないと“作品”にはなりえません。

本当に大変な時代になったなと思います。

もちろん、こだわらなければ、写真をただ楽しむだけなら、多少パソコンを扱う必要があるにしても銀塩写真時代と比較にならないほど楽になったことは言うまでもありません。

以前は現像があがるまで分からなかった結果が、今は撮ったその直後にカメラの液晶画面で確認できるのですから。

主に構図や露出、ブレの有無やピントです。

銀塩時代は、現像から戻ってきた時点で、ライトボックスとルーペを使ってやっていた作業を今は現場でリアルタイムに行えます。

多くの被写体では、失敗したと思ったらすぐにその場で撮影し直すことができる場合が多いと思います。(もちろん、厳しい条件で撮影している場合はシャッターチャンスは1回だけということも珍しくはありませんが。)

これだけでも、私の感覚では革命的な進歩です。

写真は娯楽だ、趣味だ、だから小難しいことには興味がない、という人はもちろんたくさんおられるでしょう。

結構なことです。

そういう人はそういう風に写真生活を楽しんだらよいと思います。

私も散歩がてら何も考えずにカシャッ、カシャッとシャッターを切るのは好きです、特に旅先では。

その人の興味や力量、TPOに応じていろいろな楽しみ方ができるのが写真のよいところなのですから。

問題は、たとえアマチュアでも、写真を本気で上達したい場合です、写真を極めたい場合です、”作品”を作りたい場合です。

我々には次の3つの選択肢があります。

(1)(ポジ)フィルムでの撮影を続ける

(2)単に撮影を楽しむためだけに時代の流れでデジタルカメラを使う

(3)デジタル写真を芸術として取り組む

デジタル写真で上達したいと思っている人は、(3)に該当します。

「おれは”撮って出し”にこだわっている」

なんていうのは怠惰の言い訳でしかありません。

そんな人は、作業が面倒だから、難しいから、やるべきことから逃げているだけです。

もし「撮って出し」作品に正当性があるとしたら、

撮影現場で被写体ごとに、デジタルカメラの設定(彩度・コントラスト・HDRなど)を駆使してその都度完成したイメージを作ってからシャッターを切った作品の場合です。

現実問題として、カメラでは現像&レタッチソフトほど細かく設定はできませんし、仮にできたとしても撮影現場で一枚一枚そんな設定をやっていたら撮影になりません。

シャッターチャンスはどんどん逃げていきます。

所詮おおざっぱな設定しかできないのなら、撮影現場では設定は必要最小限にとどめ、撮影に集中すべきです。

そのためには【RAW】での撮影が前提と言ってよいでしょう。

”撮って出し”は錦の旗ではありません。黄門様の印籠ではありません。

写真を上達したい人は、

デジタル写真時代になって、プリントアウトするまでが写真家自身が関わることが作品作りになったことを素直に認めるべきです。

少なくとも、最終的なプリントは外注するにしても、自分の思い通りのプリントに仕上がるように、しっかりとカラーマネージメントを行った環境で作ったデータを外注先に渡すまでが”作品”作りだと考える必要があります。

こう考えると本当にハードルが高く思えます。

しかし、見方を変えると、

こういう時代だからこそ、カラーマネージメントと現像&レタッチに真摯に取り組む人にデジタル写真時代の写真家になるチャンスが溢れているとも言えます。

デジタルカメラのおかげで、写真が上手な人は飛躍的に増えたと思います。

なにしろその場で大まかな結果を確かめながら撮影できますし、どれだけシャッターを切ってもフィルムと違って費用は発生しません。

失敗を恐れずどんどんシャッターを切ることができます。

理論は大切ですが、シャッターを切る経験の方が写真術の向上につながります。

シャッターを切るのをお金のために躊躇うようでは上達は遅れます。デジタルではその心配はありません。

普通に写真を楽しんでいる人でも「いいな!」と思う写真をけっこう撮っているのが今のデジタル写真の世界です。

そういう意味ではライバルは多いかもしれませんが、カラーマネージメント・システム(CMS)に基づいて現像&レタッチを自分で行って”作品”にまで高めている人は極めて少ないのが現状ではないでしょうか。

そうであるならば、そこに大きなチャンスが眠っているかもしれません。

そもそも地方では、外注で【AdobeRGB】で出力してもらうことは事実上できませんから、【sRGB】よりも色域の広い分階調の豊かな発色の良い【AdobeRGB】の世界を反射光(=プリント)で経験できません。

ならば、せめて【A3ノビ】くらいまでは自家プリントを行い、【AdobeRGB】の世界で勝負できるように、腕を磨いておくのがよいのではないでしょうか。

そうすることが、自分にしかできない”作品”を作りだすことになると思うのです。

(フィルム時代の熱い思いをもう一度デジタル写真でも再燃させたいと思い、同時に自分を戒めるつもりで、自分自身に対してこの記事を書きました。)


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